おはようございます、 Chromecast 微妙ですね。「Chromecast 買って AppleTV の良さ分かった」とか言ってる人が結構多くて AppleTV にしてもみんな割と買ったけど使ってなかったみたいのじゃないかと想像しています。
今日はよく言われる「欧米のテレビは多チャンネル」という話の実態について書きます。
欧米のテレビが何故多チャンネル化したかというと、ケーブルテレビの放送事業者同士の競争が極めて激しいからです。これは単純な話で、うちのケーブルテレビを契約したら他所より見られるチャンネルが多いよ〜みたいな感じで競争を繰り広げた結果です(過去そうだったという話で現在アメリカでは地域内においてケーブル事業者間の競争があるケースは稀です)。
その理由はアメリカとヨーロッパでそれぞれに違います。
アメリカの場合は国土が広すぎて電波放送では効率が悪すぎることが主因です。同様の理由で衛星放送や衛星インターネットサービスなどもそれなりの存在感を維持しています。これはまあ日本でも比較的良く事情が知られているところです。
ヨーロッパの事情に関してはあまり日本では有名では無いのではないでしょうか。ヨーロッパでケーブルテレビが一般的となった理由もアメリカと同様に、電波放送が使い物にならないからです。ですがヨーロッパの場合はアメリカとは事情が違い、ヨーロッパという比較的狭い地域に国が密集しすぎていることが原因です。
ヨーロッパにおいては、各国毎に電波放送テレビ局は原則 3 局までしか設置できないという取り決めがあります。これはあんまり好き勝手どっかの国が電波を使いまくると近隣諸国にも迷惑がかかるとかそんなんが理由っぽいです(あんまり調べてない)。
これでは 3 個までしか放送局が作れないというわけでいかにも少ないです。パラグアイでももっと放送局があります。
こうした問題を解決する為に、例えばオランダでは、公共放送を 3 個流して、番組に関しては複数の番組制作事業者に制作させることで多様性を保とうとしたりしています(この仕組みは上手く行っているとは言い難く近年縮小傾向にあります)。
ですが何をどう頑張ったとしても 3 個のテレビ局で人々が満足できるわけもなくケーブルテレビに人が流れていったという次第なわけです。
これまでで多チャンネル化の原因はケーブルテレビにあること、欧米それぞれの事情でケーブルテレビが普及したことを記しました。ではその多チャンネル放送の実態について述べましょう。
まず客観的なことですが、ヨーロッパにおいて何十とか何百とか放送が見られるケーブルテレビ局と契約したとして、その内自国語の放送は数分の一とか、悪くすると数十分の一だったりします。結構雑にヨーロッパ中の番組が流れてくるということです。これはヨーロッパでは RTL だったり FOX だったりの巨大メディア企業が大きな存在感を発揮していることとは当然無縁ではありません。
このような複雑な構造である為か、「オランダとその周辺の数カ国のみで放送されているテレビ局でイギリスで制作された英語放送の料理バラエティー番組が流れている」といった真面目にやってんのかそれというような事態も発生したりします。
アメリカにおいては上記のようなことはなく、多くのテレビ局が英語放送を行なっています(当然メキシコ人向けのスペイン語放送局だとかもありますが)。
また多チャンネルの当然の帰結として、再放送がかなり多くなります(一つのチャンネルあたりでは見てる人大していないからそんなに番組を作る金がない)。このあたりの事情は日本の CS 放送局とだいたい同じで、一日のうち新番組は 1〜2 時間しか無いようなテレビ局とかもザラです。
また上記のような過剰サービスの結果、欧米のケーブルテレビ局の月額使用料はかなり高額になってしまっています。
イタリア人がドイツ語で放送されるテレビ局を見られるだとか、ニューヨークに住んでいる人間が深南部のキリスト教原理主義者向けに延々とカントリーミュージックとバイクの改造に関する番組を流しているテレビ局を見られるだとかしても、それは全く嬉しくないわけで、徐々に徐々にケーブルテレビ離れは進んでいます。
その受け皿となっているのがインターネットであることは驚くに価しないことでしょう。 Netflix や Hulu をはじめとする有料動画配信サービスが欧米において広く受け入れられたのは「ケーブルテレビよりは安い」からに他なりません。この手のサービスの最も安価なプランだけ契約して、プランに含まれない興味のある動画があった場合個別に購入して視聴するというのは、何もかもごったまぜのケーブルテレビと契約するよりも合理的です。
またそうした配信サービスのユーザー体験を向上させるデバイスとして Chromecast や AppleTV のような STB であったり GoogleTV のようなスマートテレビ(Google TV はアメリカではスマートテレビの OS としてかなり普及してます)が欧米では大きな存在感を発揮するのです。
全く余談ではありますがケーブルテレビの視聴を快適にしようという方向の市場も当然に存在しており、 Xbox One などはそちらに"も"乗るような形になっています。
逆に言えば無料放送が地上波と衛星放送あわせて(最も多い首都圏で) 13 局もあり有料公共放送も 4 局あり、一日中それらがそれなりに高品質な番組を配信しているような日本において、インターネット上での有料動画配信サービスがいまいち存在感を発揮できないこと、そしてその端末としての AppleTV のような STB であるとかスマートテレビであるとかがあまり存在感を発揮出来ないのは当然のことなのです。
最近も話題になっていますが、アメリカにおいてもまねき TV 訴訟のようなやつが起きています。俎上に上がる問題が適法違法以前のこととして、人が訴訟を起こすのは自らの利益が毀損されている場合であるというのは当然のことです。日本においてテレビ局がまねき TV を提訴したのは、キー局と地域局というビジネスモデルを根底から破壊しかねないサービスだったからと言えるでしょう。
ではアメリカにおいてまねき TV (みたいなの)によって破壊される大手テレビ局の利益とは何か。それはケーブルテレビ局からの上納金です。電波放送は受信するだけならタダで、電波で視聴している顧客から受信料を得ることは出来ません。しかしながらアメリカの大手電波テレビ局はケーブルテレビ局からの再配信料を得るという形で、直接視聴者から受信料を徴収することに成功していたわけです。
ようするに、アメリカの電波放送テレビ局は、電波を使って受信してほしくないのです。
現状アメリカのケーブルテレビ局は衰退傾向にあり、「Netflix で見られない大手電波放送局が再配信されているから」というような理由で契約をし続けている層はかなり存在すると見積られます。これが電波放送のインターネット経由での再配信が合法であるという話になれば、多くのユーザーがケーブルテレビを解約し、もっと安価なインターネット回線事業者と電波放送再配信サービスと Netflix を契約することでしょう。その方が安いからです。
そうなってしまうと電波放送テレビ局は受信料収入を失なってしまうことになります。だからこそこの裁判で負けた場合「(直接受信料を徴収できる)ネット経由の番組配信に移行」せざるを得ないのです。
という問題については僕も結構考えていますが、オーディションで徹底的に番組が絞られることとシーズン制により無理無く制作出来ていることが大きいのではないかと思っています。
アメリカのテレビドラマにおいて「まずは 1 話だけ作ってみて出来がいいか確かめていいやつだけ放送する」というスタイルがとられていることはよく知られています。これは実際合理的なやり方でクオリティの維持に寄与しています。
ではバラエティ番組はどうかというと、向こうのバラエティ番組でよく見られるのが 10 話から 20 話ぐらいのシーズンにぶったぎられたのが不定期に放送されるというスタイルです。
イメージとしては相棒みたいな放送形態でバラエティも流れるというような。この場合時間に余裕をもって番組制作をすることが出来るので、クオリティが維持できます。
要するに、 1 年間に 40 本の面白い 1 時間バラエティを作るというのに無理があるのです。アメリカの通年放送のバラエティみたいのは糞みたいのが多いですし、日本で人気のあるリアリティバラエティの鉄腕ダッシュなどは放送休止が結構多い上に 0 円でメシ作るみたいな大して面白くもないけど金も時間もかからないみたいな企画も挟むことで本丸の農業のクオリティを上手く維持したりしていますし、テレビ東京の路線バスの旅などに至っては 1 年間に 3 本とか 4 本とかしか放送していません。
最近立てた仮説なのですが、もし本当に日本のテレビ番組がつまらなくなったのだとしたら、野球中継が無くなったせいで沢山番組作らないといけなくなったせいじゃないのかなーとか思ったりしてます。
この話にとくにオチはないです。