本作のゴジラは非常に強力な防空火力を誇っておりこの問題への対処は物語の鍵の一つとなっている。今日はこの問題について考えていきたい。
本作においてゴジラの強力な外皮を貫通するために地中貫通爆弾を B-2 爆撃機から投下するシーンがある。当該爆弾自体は現存しないためこれは架空の兵器であるが
ということで終端速度を上げて貫通力を上昇させるという実在の地中貫通爆弾と同じアプローチであることが想像される(僕の見間違いでなければこの爆弾の弾体は GBU-28 などに似ていたように見える)。
実際の運用でこの手の爆弾がどれくらいの高度から投下されるのか僕はよく知らないのだが
という問題を総合して考えると高度 6000m ほどから投下すると考えれば実態にある程度近いのではないだろうか。
この手の爆弾は投下高度のおよそ 5 倍程度の射程距離を持つらしい。しかしゴジラから 30km ギリギリ離れたところから投弾するとは考えられず、ここでは 10km 離れた地点から投弾するものとしたい。
ここで問題となってくるのが母機のコースである。ゴジラから半径 10km の同心円をギリギリかすめるコースで投弾するか、そのままゴジラ直上を通り抜けるかである。ゴジラが強力な防空火力を持っていると米軍は知らないのだからそのままゴジラ直上を抜けるコースを取ることも考えられるが、意味分からん大トカゲとかに近寄りたくないし素通りコースを抜けるとする。
またあの爆弾の終端速度とかよく分からんのでこの際エイヤッと投弾から命中まで 1 分としよう。たぶんそんなもんでしょ。
またゴジラが弾着から防空形態への進化に 10 秒かかるものとする。これにより B-2 の巡航速度をかけると母機は投弾から弾着までに 17.5km を移動する。
ようするにこういうことである。
赤丸がゴジラであり、赤線が弾着時の母機とゴジラの間の距離。
これは sqr((17.5km)^2+(10km)^2) であるからだいたい 20km 前後。飛行高度は 6km だがこれはここでは無視してよい(大した影響がない)。
よってゴジラの背中から出るあのビームの有効射程は 20km 以上ということが分かる。とっても短かく見積もっても 10km を切ることは無いだろう。実際の画面ではもっとビームが伸びているようにも見えたが、ゴジラがもつ索敵能力や脅威判定能力なども関わってくることなので、まあここは 25km ぐらいが射程としておこう。
この厄介な防空火力を減殺するために、日本政府は無人機プレデターからヘルファイアミサイルでの攻撃を段階的に行なうこととした。これは成立しないことが明らかである。なぜならヘルファイアの射程は 8km ほどでしかないので、 25km の射程を持つゴジラの前では低速の無人機では射点につくことなど出来ない。
ここで問題だと僕が思うのは、こういう矛盾があるということそのものではない。そんなことはどうでもいい。こんな矛盾があるにもかかわらずプレデターの波状攻撃という描写がぜんっぜんかっこよくないという点だ。例え地味な描写でも物語上の必然性があれば観客はそれに圧倒されるし、矛盾にあふれて物語にあってもなくてもいいような展開でもビジュアルの派手ささえあれば大満足だ。
恐らく、ゴジラはこのような論理で作られているのではないか。
すべては在来線爆弾とあのストロー攻撃のために存在しているのだ。実際あのシーンは異常にかっこよく、楽しい。明らかに最高だ。
ゴジラの防空火力とは 2. の話であって、米軍が通常火力で攻撃できない理屈を作るために後から考えた設定なのだろう。しかし、通常火力で攻撃できないのでこれを封じさせないと話にならないので疲弊させるシーンを作らなければならない -> パイロットがどんどん死ぬのはなんか変だしプレデターだ、というような雑な思考であのシーンが出来たのではないかと想像する。
ここで問題となるのが、クライマックスのシーンでありながら、あきらかに雑な仕事がそこに混ざっていることだ。僕の勘繰りがまったく外れていたとしても、そこで仕事をサボったのは事実だ。考証的な矛盾とビジュアルのショボさがそこには同居しているのだから。
恐らく、列車爆弾とストロー攻撃以上の決戦のアイディアが出てこなかったのだろう。というかそれありきで仕事をしていたらそうなるのはある意味、当然のことと言ってよい。しかし、そこに考証面から考えた、下からの思考といったものが入っていてほしかったというのは、世紀の大傑作映画を前にして少々贅沢すぎる感想なのだろうか。
ゴジラ、 00000JAPAN が解放されるシーンで感動して泣いてしまった
— サウジアラビア (@ssig33) July 31, 2016