賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという。その仮定が正しい場合、人類の知能はそこまで広く分布しているわけではないので人類はだいたいみんな歴史からは学べないということになる。
正直自分の実感としても他人の失敗事例から学べたということは少なく(歴史から学ばない態度)、人は自分の失敗から学ぶしかないのではないかと思う。ただまあ他の技術者が事故にどのように対処したかとか、対処に失敗したかとか、歴史から学べた稀有な事例は何かといったことを読むのは楽しい。
ハインリッヒの事故防止の研究とは何の関係もないけど、爆笑問題カーボーイが一番面白かったころの本。今読んでも面白い。
僕が属する IT エンジニアリングの世界では"エンジニア"の職務範囲はあんまり従来エンジニアリングの範囲に属していなかった部分にも広がっていく傾向があるように思う。現代社会の科学技術への依存が深まる以上他の方面のエンジニアでも事情はある程度似ているのではないか。知らんけど。
IT エンジニアリングの世界では契約の適当さから揉める事案が多く、数十億円規模の損害賠償が裁判で争われるケースなどもある。ただまあ契約が適当で揉めるケースはどんなところでも聞くし、技術者がその方面の実務にかかわるケースもあるだろうし、この種の契約失敗事例と対策については読んでおくのがよいのではないか。
建設業界の経営層やマネジメント層のエンジニアへのインタビュー集。プロジェクトマネジメントの欠如が現場の努力で賄われるという構造は建設業界でもふつうにあるんだなあということが伺われる本。
** 業界のマネジメントはドカタよりも酷い!!などと訳の分からない自虐をする者がよくいるが、その建設業界も大して事情は変わらんようなので訳の分からない自虐はとりあえずやめましょう。
このような紹介の仕方になり土木建築にかかわる皆様にはまあ失礼極まりない感じになってしまいましたが、上のような観点以外から読んでも純粋に面白い本です。
現代において軍隊とはエンジニアの集団だとはよく言われることだけど、そのエンジニアの集団たる軍隊のパイオニアといえばやはりローマ帝国の軍隊なのではないか。
カエサルのガリア戦記と内乱記は技術者の視点からとらえた歴史という価値を持っていると言える。そもそも圧倒的に技術水準が違う集団同士の戦争というのは、戦争にすらならないので発生しえない。
しかしながらカエサルの対ガリア侵略は、カエサルの国内政治上の私的野心によって発生したものであるから、圧倒的に技術力があるローマが政治的理由により極めて限定された兵力で、大兵力の未開民族を攻撃するという変則的なものとなったため戦争らしい戦争になった。
結果として、技術力というものの力をもっとも分かりやすく説明してくれる状況が現出している。ガリアでの技術者と未開民族の戦争、そしてローマ内戦における技術者同士の戦争を比較した時、技術の力がはっきりと見えてくる。
いわゆる大企業病などと呼ばれる症状は、この全集にふくまれる支配の社会学がすべてを説明している。じゃあどうすべきかみたいな話はヨーゼフ・シュンペーターが説くところだけれども、ウェーバーが支配の諸類型などで示したところとあわせて考えると官僚化した組織は結局のところカリスマが出てこなければどうにもならないことが示唆される。
いずれにせよ我々が考えるような組織の問題は 19 世紀末から 20 世紀初頭に既にほとんどが問題提起されており、そしてほとんどろくに解決を見ていないことがこうした古典からうかがわれる。一エンジニアが官僚化した組織に対してできることなど、逃げることぐらいなのではないか。
それにしてもこの分量のウェーバーの本をとても安価に読めるようになって、いい時代になった。
プロジェクトマネジメントの失敗例がこれでもかというほど出てくる小説。主人公のロックウッドが所属する航空宇宙軍は、技術力の軽視、スケジュールの甘さ、問題の優先順位の取り違え、無責任な指導体制、情報収集の軽視といったありとあらゆるプロジェクトマネジメントのアンチパターンを踏みまくった挙句に大事故を起こし宇宙人との戦争に敗北してゆく。
技術者なら誰でも辛い気持ちになれる名作。