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2009-06
アーサー物語
第 1 章 - 09
軍営近くの丘陵地帯。決戦場に選んだ。
策自体は単純だった。マーリン中心の立案。あとは、それを自分がどう回すか。
雨は、土煙を消す。その音は、馬蹄の響きを消す。それが、どちらに有利になるか、考えないことにした。
軍営を出撃した時、小降りだった雨は、豪雨と言っていいような雨になっていた。ブリタニアの地は雨が多いが、ここまでのものは珍しい。
ランスロットが駆けて行く。先程と同じ編成で、騎馬は全てランスロットに任せた。歩兵は全部アーサーが見る。
ランスロットに、サクソンの騎馬隊が襲い掛かったようだ。戦闘の気配だけは感じられる。
「マーリン、行け」
短かく言った。
「お任せを」
返事は短かかった。二百人が、マーリンについて駆けていった。
丘を登る。駆けない。歩く。丘の頂上に一人、アーサーは伏せる。兵は稜線の向いに隠す。
頂上から、戦闘の様子を見た。ランスロットは二隊に分かれ、四隊に分かれ、それが一隊に戻って突撃をし、と激しく動きまわっている。サクソンの軽騎兵もその動きに追随している。
あの騎馬隊の指揮官が欲しい。そう、思った。
じっと、待った。雨が、激しい。兵達は、躯を冷さないように常に躯を動かさせた。
どれ程、待ったのか。ランスロットは馬を上手く休ませながら、激しい動きを繰り返している。
雲を通してなんとか位置が分かるだけの陽。大分、落ちてきた。
ランスロットの騎馬隊は、もう三百程に減っている。サクソンの軽騎兵も、六百五十程まで減った。
犠牲は同じ程で、同じ犠牲なら兵力の多い方が有利だ。
アーサーは、飛び出しそうになる自分を抑えた。凡人の戦は、どこまで残酷になれるかだ。戦場を大きく迂回している、マーリンの到着まで、残酷であらねばならない。
死ね、ランスロット、俺の戦の為に、ここで死ね。そこまで思わなければ、飛び出してしまいそうだった。
数の少ないランスロットは、サクソンの軽騎兵よりも遥かに動きまわっていた。
騎馬隊の戦場の向いの稜線。歩兵が駆けていた。稜線から見え隠れしながら駆けている。それで、五百以上いるように見えた。マーリンは上手くやった。
もう六百を切ったサクソンの軽騎兵が、一塊になって、マーリンと反対方向に駆けてきた。アーサーのいる方に、駆けてきた。
埋伏を読み切れていない。
ランスロットは、それを追う。二百六十騎、とアーサーは見た。
サクソンの軽騎兵は、丘を駆けあがってくる。ランスロットは、丘の下で動きを止めた。
サクソンの軽騎兵は、あと一呼吸か二呼吸で丘を駆け上がる。アーサーは、剣を抜いた。サクソン人が使うのと、同じ剣だ。そして、振り下ろした。
兵達が、一斉に長槍を持って飛び出した。埋伏の一撃目で、百騎近くが馬から落ちた。
サクソンの軽騎兵は、反転しようとした。アーサーは、剣を振り上げ、振り下ろした。
整然たる一撃。反転中のサクソンの騎兵。また、五十騎程が打ち落された。
サクソンの軽騎兵は、丘を駆け下りてゆく。しかし、隊列は混乱し、逆落しの威力は発揮出来ていない。下で待ち受けるランスロット。
アーサーは、歩兵を前に出し丘を駆け下ろさせた。
サクソンの軽騎兵は、腹背に敵の攻撃を受け、一気に打ち落されてゆく。歩兵の掃討は、残酷で、それはアーサーに見合う戦だった。
サクソンの軽騎兵から、一人が飛び出した。隊長だろう。ランスロットに向う。
ランスロットも、受ける気のようだ。
「殺すな、ランスロット」
そう、叫んだ。聞こえたかどうかは分からない。
サクソンの隊長は、ごく普通のスクラマサクスを手にしていた。
ランスロットは、馬を動かさないで、それを受けた。
アロンダイトの閃き。剣戟。サクソンの騎馬隊の隊長の剣が、斬れた。そう、斬れた。アロンダイトは、剣を斬った。
サクソンの隊長は、そのまま落馬したようだ。
それを見て、軽騎兵の残りの兵も、馬を降り、武器を捨てた。残った兵は、百騎と少しだった。
勝った。しかし、雨が激しい。ランスロットと顔をあわせる気になれない。マーリンとも、話したくない。アーサーは、この戦場で自分一人しかいないような気持ちだった。
雨が、激しい。
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