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2009-06
アーサー物語
第 1 章 - 07
奇襲を受けた。八百騎だ。正確には、七百五十騎程だろう。先の戦闘で、五十騎近くは、倒した。
常に歩兵から離れないように動いた。サクソンの軽騎兵は、二隊の離合を中心とした幻惑するような動きで、歩兵を背にした重騎兵に正面から飛び込む愚はしなかった。
散発的なぶつかり合いで、双方共に殆ど犠牲はなかった。
幻惑に対しては、動かないという対処が一番いい。
こちらが歩兵から離れないと見えると、水が引くようにサクソンの騎馬隊は去っていった。
「全隊の指揮官が、見えたかな」
「八百の先頭にいた、あの男か」
「だろうな。二隊の合流などの動きもあれを中心にしていた」
「正面からの力は、測れなかったという気がする」
「奴等は、こちらの意図を読んでいたのだろう。決して、正面からの動きは見せなかった」
「ほう、ランスロット、お前にはあれがそう見えるのか」
「ああ。明らかに、力を隠していたな。ただ、一つ特徴は見えた。疾駆はさほど速くないが、並足は速い」
「つまり、戦域を広く取られれば、こちらが不利になるか」
「だろうな」
「歩兵の使い道かな。しかし、露骨に歩兵を見せれば逃げられるというのも分かった」
「そこを上手く衝けば勝てるか。しかし、嫌な予感がする」
「何だ」
「見落している物がある気がするのだ」
「ほう、見落している物か」
第二隊、もうかなり進んでいるはず。第一隊、戦闘中だろう。
軍営。ガウェイン卿。後方部隊三百。それしかいない。
「軍営だ、ランスロット」
「なる程、あそこには三百しかいない。しかも、戦闘部隊ですらない」
「騎馬隊だけで、急行してくれ。俺の騎馬隊も連れていけ」
「何をすればいい」
「蹴散らせとは言わん、釘付けにはしてくれ」
「分かった」
ランスロットは素早く愛馬に乗る。剣を抜く。アロンダイト。
ランスロットは、アロンダイトを、中天に振り上げた。
「我が軍営が危機に陥いっている。駆けよ。駆けることに、騎士の誇りの全てを賭けるのだ」
アロンダイトが、振り下ろされた。四百騎が、一斉に動き出す。
気付くと、マーリンが隣りに立っていた。
「おい、マーリン、ランスロットはどこまでやれると思う」
「引き回して、釘付けにするところまでは見事にやりましょう」
「打ち払えはしないか。では、俺達の出番だな」
「ええ、殿の望んだ戦です」
これが、マーリンの話し方だった。
大音声。張り上げる。
「ランスロット卿が駆けている。しかし、この戦の帰趨を決めるのは、我ら歩兵の戦だ。ランスロット卿とサクソンの軽騎兵に、ブリタニアの歩兵の戦を見せ付けてやるのだ。駆けるぞ」
歩兵達から、鬨の声が上った。
アーサーに、振り上げ、振り下ろすような立派な剣は無い。隊長達に、いくつかの指示を出した。
アーサーの歩兵が、静かに動きだした。そう、歩兵はアーサーのものだ。騎馬隊の戦はランスロットのものだが、歩兵の戦はアーサーのものだ。
今度は、どんな動きでもランスロットに遅れを取りはしない。アーサーは、馬に乗らず、自分の足で駆け初めた。
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