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アーサー物語 / 2009-05

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2009-05-29 Fri

第 1 章 - 04

 第二隊が、痛撃を受けた。軽騎兵である。四百騎だった。
 指揮していた上級将校が、狙い撃ちにされた。そういう動きをされたので、寡兵の襲撃だったが、かなり被害を受けた。上級将校のうちの一人は、戦列を抜け、第二隊は一人の指揮になった。犠牲も二百を数えるという。
 ただ、その程度の犠牲で済んだのは、ランスロットが騎兵だけで、凄まじい勢いで、軽騎兵に迫ったからだった。ランスロットが迫ると、素早く離脱した。それを追うことは出来なかった。間に味方の部隊がいたからだ。
 そして、残る一人の上級将校は、第一隊の騎馬隊の指揮の補佐だった。第一隊は、将軍自らが指揮をとっている。これの詳細な位置は、伝令所が潰された今、アーサーのところから確認する術はなかった。
 将軍は、アーサーとランスロットの遊撃隊に独立行動権を与えたが、いざその将軍が先行すると、上級将校がうるさいことを言い始めた。その場にいない将軍の指示を持ち出して、それに抗うようなことはアーサーもランスロットもしなかった。その結果が、これである。
 ランスロットは、いろいろ言おうとしたが、アーサーは一度痛撃を受ければ変ると考えていたから、ランスロットに抑えていた。
 「リーバイ・カー隊長がお呼びです」
 伝令の兵。リーバイ・カーは残った上級将校の名前だ。その名を、これまで意識もしていなかったことにアーサーは気付いた。自分の夢は、見ている道は、そんなところに止まりはしない。
 「アーサー・ペンドラゴン、ただいま参上しました」
 「ランスロット・ヴァルカ、参上しました」
 リーバイは、右肩を負傷していた。
 「俺の考えが甘かったようだ。お前達を俺の指揮下の部隊として使おうとしたのは間違いだったな。ガウェイン卿や将軍の考えに従うのが一番よさそうだ。アーサー、ランスロット、直ちに軽騎兵を追え。すまなかった」
 すまなかった。そう言ったリーバイの表情は、戦の始まる前と比べると、まるで別人のようだった。老けこんでいる、という言葉があうかもしれない。
 リーバイの本陣を離れた。
 「アーサー、何か考えはあるか?」
 「考えも何も、敵の詳細が分からん。第二隊を襲ったのは、四百騎程と俺は見たが、それが全部なのかどうかもわからないしな」
 「まずは、正体を見極めるところからか」
 「正体も何も、伝令所と補給拠点の被害すら把握出来ていないではないか」
 「ふむ。今回の出撃、拙速に過ぎたところがあったかな」
 「愚痴を言うような形にはなるが、将軍は果敢ではあるが、軍議では押しが弱い。上級将校のあの三人主導になりがちだな。そしてあの三人は」
 「アーサー、俺の前でもそれは言うな。こういう事態の結果ではあるが、俺達の独立行動権も認めてくれた。今は、今出来ることをしよう」
 「そうだな。ガウェイン卿の読みから敵の総兵力は大きく外れていないと今は俺も思う。軽騎兵に囚われて、少し視野が狭くなっていたかな。となると、あとは従来の水際迎撃の方法で問題無い。第一隊は重騎兵のみの部隊だから、あの軽騎兵の襲撃を受けたとしても大した損害は無かったはず。問題無くフォークストーンに入れていると推定していいと思う」
 「となれば第二隊に問題無くフォークストーンに向ってもらえればいい訳だな。どうする?」
 「軽騎兵の標的を我ら遊撃隊に当てさせ、本隊から引き離し、撃滅する。これが基本的な流れとなる」
 「しかし、お前が言う通り、軽騎兵の実態すら掴めていない。まず実態を掴むことは将軍の指示でもある」
 「伝令所の被害を調査する必要があると思う。これを調べれば、おのずと軽騎兵の実態も掴めるだろうし、今後のためにもなる」
 「そうだな。それに俺達があたるか」
 「いや、これは俺一人でやる。一千を投入することもないだろう。ランスロット、お前は、第二隊の護衛をしてくれないか。俺達が一緒になって離れれば、また第二隊が襲われるかもしれん」
 「ほう、それはいいな。しかし、俺はともかく、お前はそれでいいのか。俺は軽騎兵の襲撃を受けても凌ぐ自信もあるし、あくまで護衛だ。しかし、お前は五百で全部を受けなければならない、という可能性があるぞ」
 「おい、ランスロット、俺を誰だと思っている。アーサー・ペンドラゴンは、騎兵の調練でランスロット・ヴァルカを打ち負かした男だぞ」
 「そうだったな。これは失礼をした。しかし、無理はするなよ。俺との調練でやったような」
 「大丈夫だ。俺は自分が弱いということぐらい、重々承知しているさ。では、俺は行くぞ」
 「おう、行ってこい。ここの心配は一切しなくていい」
 アーサーは、駆け出した。アーサーの隊も、ランスロットも隊も、いつでも直ぐに駆け出せるように調練されている。

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2009-05-28 Thu

第 1 章 - 03

 アーサーとランスロットは軍議に参加することの出来る将校としては、最も若い。五百の部隊の隊長はこの軍営に十五人いる。その上には五百の部隊を五つ指揮する隊長がいて、さらにその三人を纏める総司令官がいて、これは将軍の位を持っていた。それ以外に軍営での任務に従事する三百の部隊があり、これは隊長の騎士以外三百人全員が歩兵だった。そしてその隊長の騎士も軍議に参加していた。
 「状況は各自聞いていると思うので、本題から入る。後方の諸軍営には伝令を出してあるが、当面の戦は我らのみで迎撃することになると思う」
 二千五百を指揮する上級将校がいきなり口を開き、その言葉から軍議が初まった。
 「二段に構えるというのが私の意見だ」
 別の上級将校が言った。
 「トリスタン・ロングの伝えるところによれば、主力は歩兵と戦車の部隊。これまでの侵攻と変わるところが無いな。ならば兵力もおよそ一万程だろう。上陸に要する期間はおよそ二日。フォークストーンまで全軍で駆けて一日。騎兵だけで急行すれば半日。十分に間に合う。止めるだけの水際迎撃ならば騎兵二千で十分。二隊の騎兵を先行させ、残存部隊は歩兵とともに移動。第二隊は騎兵の戦いを見て敵軍に横撃をかける。これで敵のかなりの部分を崩せると思う。そしてその状態で後方の応援を待ち、十分に兵力を得た時点で総攻撃。これで問題が無いと思う」
 「しかし、軽騎兵はどうしますかな」
 こう言ったのは、後方部隊の隊長の騎士だった。名はガウェイン・フーリンと言い、北イングランドの出身だということぐらいしかアーサーは知らなかった。年齢は、アーサーより一回り程上だった。
 「サクソンの軽騎兵など恐れるに足りぬ。奴等のこれまでの主力は歩兵と戦車。騎兵で戦ってきたブリテンローマ軍の敵ではないと私は思う」
 「しかし、今我らの手にある情報は余りに少ないのではありませんかな。正体の分からない敵を軽視するのは危険なのでは」
 「一度も戦ったことの無い敵を恐れるのは、それは怯懦というと私は思う」
 「軽騎兵だけでなく全体を見るべきでは無いでしょうか」
 アーサーは、初めて口を開いた。軍議に参加出来る身分になったのがつい最近だったし、こういう風に軍議で発言するのは、本当に初めてだった。
 「ほう、アーサー卿、実戦の勇者たる卿の意見を聞かせてもらおうかな」
 その声には、少なからず軽蔑と皮肉が混ざっていた。アーサーの家は耕地をいくらか持つ土豪だったとは言え、殆ど戦功だけで将校に上ったのだ。この上級将校にはしかるべき家格があった。アーサーは、それを気にするでは無かった。
 「軽騎兵を先行して深くに攻めこませるというやり方をサクソンがとったのはこれが初めてです。トリスタン・ロング卿によれば、その軽騎兵はまず各所の伝令を潰してまわっている。これは我がローマ軍の一軍で水際迎撃をもって釘付けし、戦力が整った時点で逆撃をかけるという従来の戦法に対する明らかな対策です。トリスタン・ロング卿はしかるべき地位の騎士で、そういう男が自らの足を以って駆けてきたということは、各所の伝令書はほぼ壊滅状態と言っていいのではないでしょうか。もし水際迎撃を行なったとして、そういう情勢では我が軍営の分隊どうしでの連携すら覚束無いのではないでしょうか。いわんや後方諸軍営との連携など。明かに我らの戦を読んで狡猾に攻撃をかけてきています。そうともなれば、本体の兵力も一万程と決めてかかるのも危険かと思います」
 「全体を見るべきと卿は言ったが、やはり卿は軽騎兵を特に恐れていると見えるな。それはやはり怯懦と言えるのではないかな」
 さらにもう一人の上級将校が言った。
 「伝令所が徹底的に潰されているというのはこれは怖い。それに私は騎兵の恐しさをよく知っています。私はともかく我らの同輩ランスロット卿が騎兵でもってサクソンにどれ程の損害を与えてきたかは皆様もよく御知りのはず。騎兵の機動力は実に恐しいのです」
 「しかし、歩兵と戦車で戦うサクソンにランスロット卿程の優秀な騎兵指揮官がいるとは私には思えない」
 「敵の軽騎兵の動きをよく考えて頂きたい。上陸するやいなや先行して動きだし風のようにこちらの伝令所を次々と潰していると見える。馬は常に駆けさせなければすぐに駆けなくなるのはよく御存知のはず。敵の軽騎兵は船で海峡を渡ってブリテンに来たのだ。そういう状態なのに軽々と駆けているというのは並の騎馬隊では無いし、それを指揮するのはひとかどの騎士だろう」
 「分からないものについてこれ以上議論を重ねてもいたしかたありますまい」
 ガウェインだった。
 「アーサー卿は軽騎兵と敵の新戦略を恐れているようだが、軽騎兵はともかく本隊はどうかな。アーサー卿は敵本隊の戦力についても不安を抱いているようだが、これはどれ程多くともせいぜい一万五千に満たないでしょう。サクソンの総戦力を考えればそうなります。総力での総攻撃をフォークストーンからかけてくるというのは少々考えずらい。これは軽騎兵という新戦略の試験導入というところではないでしょうか。そう考えれば自ずと答えは出てくると思う」
 ガウェインは一息つき、言った。
 「一万五千の敵の水際迎撃なら六千五百でも十分。二隊一千が抜けても問題はありますまい。六千五百は今まで同様の水際迎撃の動きをとり、二隊一千は遊撃隊としこれを敵軽騎兵への対策とする。遊撃隊にはアーサー卿とランスロット卿が適任かと」
 「それかな」
 将軍だった。
 「迎撃の編成は上級将校を通じて通達する。アーサー卿とランスロット卿はガウェイン卿の提案通り遊撃隊とする。これついては以後この戦の終了まで私は指揮において関与しないものとする。軽騎兵の実態を暴きこれを無力化せよ。遊撃隊は出撃準備が整い次第即座に出撃せよ。他の騎士も出撃準備。剣に勝利を誓え」
 騎士達は、剣を抜く。中天に掲げる。
 「ローマに勝利を」

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2009-05-27 Wed

第 1 章 - 02

 ランスロットは、軍の同期だった。アーサーは、志願して軍に入った。ランスロットも同様である。
 アーサーは、土豪の二番目の息子だった。地元の土地は、兄が継ぎ守ることになるだろうから、アーサーが軍に入るというのはごく自然なことだった。
 ランスロットは、フランスのヴェンウィックという地方の王の息子だという。しかし、両親は早くに死に、そしてランスロットは各地を流れ歩きながら、武者修行をしていたという。
 ランスロットが何故ブリテンの地でローマの軍に入ったのか、アーサーは知らなかった。聞くようなことでも無いと思っていたからだ。
 しかし、アーサーとランスロットはいい友達同士だった。志願兵だし、それぞれ家柄のある身だったから、士官候補生として軍に入った。
 だから、訓練でもよく時間を共にしたし、実戦でも肩を並べて戦った。
 アーサーもランスロットも戦功を認められて、すぐに昇進した。二人は、同い年で今二十三歳だったが、騎兵二百、歩兵三百のそれなりの部隊をぞれぞれ指揮していた。
 アーサーとランスロットは、指揮官として全く対照的だった。
 ランスロットは、いつでも勇敢だった。どんなときでも先頭に立ち、武技を顕し兵を奮い立たせ、どんな強敵にでも騎兵を率いて真っ先に突っ込んでゆく。
 アーサーは、いつでも怯懦を抱いていた。それが悪いとも思わなかった。アーサーは剣がさほど得意ではない。アーサーの部隊の騎士や兵のなかにもアーサーを打ち倒せる男はいくらでもいる。そういう自分は、人の上に立つ以上怯懦を無くすべきでは無いのだ。自分がランスロットのように勇敢になれば、兵は皆死んでゆく。
 そんな訳だから、アーサーの戦は歩兵の動きが中心である。歩兵で切り崩した周辺を騎兵で確保してゆく。そんな戦が得意だった。
 だから、先の日に、ランスロットから騎兵の実戦形式での調練を申し込まれた時は、真剣に断わりたかった。
 しかし、調練という形であれ、騎士が騎士から挑戦を受けた以上、断わる訳にはいかなかった。
 それでアーサーはマーリン・シルベスターに相談したのだった。
 マーリンは、アーサーの歩兵指揮官だった。隊長たる騎士は、騎兵の指揮を担当するというのがローマ軍の伝統だから、アーサーは騎兵を率いてマーリンに歩兵を任せるという態勢を取っていたが、本当は歩兵を自分で指揮し、しかるべき騎士に騎兵を任せ、マリーンには軍師のような立場に立ってもらいたい、と考えていた。
 マーリンにそれを話したことがあった。マーリンはそれはならないと言った。若くして出世したアーサーは周囲から妬まれている。下手に伝統を破って目立つ真似をするべきではない。それに騎兵の指揮の経験も積むべきだろう。マーリンはそう言った。
 マーリンは、戦術から政治的なことまで、実に広い視点を持っていた。アーサーが最も信頼している部下だった。だから、ランスロットの挑戦をいかに受けるべきか、マーリンに相談するというのはアーサーにとって当然のことだった。
 マーリンは、ランスロットの攻撃を躱すには部下を効率的に犠牲にするしかないと言った。その考えをもとに二人で作戦を立てた。
 そして、実際それは見事にはまった。しかし、ランスロットはそれを力で捻じ伏せ、自分はあと少しでランスロットに打ち落されるところだったのだ。
 武術が得意では無いというのはアーサーの大いなる悩みだった。武術さえ出来れば、あんな作戦を執ることもなくランスロットと堂々と一騎打ちが出来る。
 それに、ランスロットの剣は実に見事なのだ。剣の動きももちろんそうなのだが、剣そのものも実に見事である。アロンダイトと呼ばれる剣で、ランスロットのヴァルカ家に受け継がれる剣であるという。アーサーの遣う剣は、実に平凡な剣だった。家から持ってきた剣もあったが、折れたので、今は軍の支給品のスクラマサクスを使っていた。歩兵が遣うのと同じものである。
 そんなことを、考えていた。そんなことを考えられる程、平凡な哨戒任務だった。
 ふと、一人男が駆けてくるのが見えた。装備は、騎士のものである。しかし、徒歩で駆けてくる。
 尋常ならざるものを感じた。アーサーはその男の方に駆けた。
 その男は、限界まで疲労しているように見えた。
 「どうした、何事だ」
 「フォーク・ストーン伝令部隊長、トリスタン・ロング、火急の伝令がある」
 「卿はそれ以上駆けることはままなるまい。俺が取り次ごう」
 「かたじけない。奴らは伝令から潰しにかかっている。それで俺一人で駆けてこざるを得なかった。それで、馬を潰してしまったのだ」
 「奴らとはサクソンか。それもいつもの侵攻と違うようだな」
 「そうだ。事は急を要する。要点だけ伝えよう。サクソン人がフォークストーンの海岸から侵入している。主力はいつも通り歩兵と戦車の部隊だが、軽騎兵の部隊が先行して侵入して、こちらの補給拠点や通信の拠点を襲撃しているようだ」
 アーサーは、トリスタン・ロングという騎士の話し方に好感を抱いた。
 「やつらもやりかたを学ばないでは無いようだな。分かった、後は俺に任せろ。本営に参るぞ。それからその勇敢な騎士殿は我が陣営でお休み頂くのだ」
 アーサーは、いつも通りの戦にならないだろうということに不安を抱きはしなかった。むしろ、胸が踊る。血が湧きたつ。
 アーサーは、臆病だが、しかし、戦は好きだった。

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2009-05-26 Tue

第 1 章 - 01

 かなたに見える空の色は銀灰色だった。
 アーサー・ペンドラゴンは、向いの陣に隙を見出せなかった。ランスロット・ヴァルカの陣はさすがだった。ただ、自分もランスロットに隙を見せていないだろうという自信はあった。
 騎兵の調練である。互いに、二百騎を指揮している。互いの後ろにある丘の上の旗を倒すか、大将を倒すかすれば、勝ちである。
 ランスロットは、いきなり前に出た。二百騎全てでだ。ランスロットらしい果断さだった。
 アーサーは、動かなかった。方陣である。
 ランスロットは、縦列で突っ込んできた。アーサーは動かない。
 ランスロットは、アーサーの陣を突き破った。十騎程がランスロットの棒で叩き落された。
 集団戦の調練では、剣や槍ではなく、オークで作られた棒を使う。
 アーサーは、前に出た。百騎である。残りの百騎には反転を命じた。
 それで、後の百騎とランスロットが乱戦になった。
 アーサーは、百騎の中核の位置で指揮を執る。
 疾駆。旗を目指す。ランスロットは仕掛けにはまった。
 ランスロットは、五十騎程で飛び出してきた。最初に機を掴んだのは、アーサーだったが、ランスロットはそれを力で捻じ伏せたというところか。
 ランスロットが指揮する五十騎は、流石に速かった。アーサーにはああいう鬼気迫る指揮というのはとても真似出来ない。
 アーサーは百騎のうち五十騎にさらに反転を命じた。アーサーの旗の近くの乱戦は気にしなかった。あそこには、ランスロットはいないのだ。
 容易く、蹴散らされた。ランスロットはこの動きを読んでいたようだ。そうなると、ランスロットは勝てない。
 しかし、あと少しで、ランスロットの旗に手が届く。
 ランスロットは先頭で突っ込んでくる。ランスロットに蹴散らされた五十騎は二十騎程に減っていた。馬から棒で叩き落されたら、退場するというのが調練のルールである。
 その二十騎はランスロットを追っているようだ。しかし、届かない。ランスロットは速い。そして、ランスロットはアーサーを狙っている。
 アーサーが旗に届くのが早いか。ランスロットがアーサーを叩き落すのが早いか。
 ランスロットは、いつも先頭か最後尾かにいる。攻めるときは先頭で、退く時は最後尾である。
 アーサーにはとても真似出来なかった。アーサーは中核で指揮を執ることが多い。
 しかし、今アーサーは先頭にいた。今、この戦は、アーサーが倒されない限り、勝ちだからである。そう、ランスロットとの調練は、まさに戦だった。そういう相手である。
 ランスロットが迫っている。アーサーはただ駆けた。ただ、速さを競うだけである。
 追い付かれた。アーサーの隊が、最後尾からランスロットに崩されている。
 アーサーは振り替えらない。無駄だからである。こういう局面の指揮で、自分がランスロットにかなう訳は無いのだ。
 ただ、駆ける。ランスロットの気配はもうすぐ後ろである。
 旗に、もう近い。アーサーは、振り替えった。
 五十騎全てが、追い散らされていた。打ち落されなかった騎士が、ランスロットを追おうとしていたが、ランスロットは相手にもしていなかった。
 しかし、指揮もせずただ駆けたアーサーは、ランスロットを少し引き離していた。
 ランスロットが気合いの声を上げた。ランスロットが単騎で飛び出してきた。
 速い。速過ぎる。追い付かれるのか。いや、追い付かれてなるものか。アーサーも必死で駆ける。
 ランスロット。横にいた。ランスロットが棒を振う。剣の長さの棒。左手で持っている。なんとか棒で受けた。しかし、ランスロットの剣は凄い。腕どころか、肋骨まで痺れた気がした。
 自分の腕では、次は受けられない。それがはっきりと分かった。ランスロットがまた棒を振り上げた。
 次の瞬間、アーサーはランスロットの旗を掴んで、引き抜いていた。
 アーサーの勝ちである。両軍の騎士から、歓声があがった。
 アーサーは、ランスロットは、馬を降り、礼を交した。
 「相変らず、残酷な指揮だな、アーサー」
 「どこまで残酷になれるか。それが凡人の指揮だと俺は思っている。お前のような男と凡人が伍すにはそれしか無い」
 「しかし、兵は死ぬぞ」
 「指揮官が残酷であればある程、兵は死なない。俺はそう思っているよ」
 アーサー・ペンドラゴンは笑った。
 ランスロット・ヴァルカも笑った。
 アーサーは空を見た。銀灰色の空。雲間から、陽の光が差していた。

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最終更新時間: 2009-06-11 15:06